氷の華
柿沢が振り返ったのは、気配で分かった。


頬に張り付いた粉雪が、ゆっくりと溶け落ちていく。


冷酷だ冷血だと呼ばれている俺の上を、溶けかけた雪が滑り落ちていくのは、当然だが不思議だとも思う。


柿沢は俺の言葉には応えず、失礼しますと言って部屋を出て行った。


閉じられたドアに行き場を失い、寒風が身体を包み込む。


光を無くした空に、冷たく澄んだ冬の風が心地良い。


身を切られるような寒さの中、思い出したくもない二つの記憶が蘇ってきたが、再び記憶の奥底へと沈めた。


鈴蘭の香りを追い出した室内に、思考も冷静さを取り戻し始めていた。
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