氷の華
初冬のバケツに張った、薄氷のような緊張感。


酔客のとろけ出しそうな視線と瞳を合わせているキャスト達は、細心の注意を払いながら意識だけ此方に向けている。


ただ一席だけを除いて。


四番テーブルに座る、パールのドレスを纏った女だけは、客だけに意識を向けていた。


客だけにと言っても、フロアには蜘蛛の巣のようなアンテナを張り巡らせている。


ホールの動き、他のキャストの動き、客の動き、店内に漂う空気の流れ。


その全てを肌で感じているが、俺に対してだけは意識を向けていない。
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