氷の華
「行くって何処にですか?」


困惑する私からの当然の疑問は聞こえないかのように、柿沢店長は鉄製の階段をカジュアルなローファーで踏み鳴らしながら下っていった。


朝早くに突然電話してきたんだから、質問にぐらい答えてくれても良いじゃないの。


内心では毒づきながら私も部屋の中に戻り、コートを羽織って柿沢店長の後を追った。


今年の冬用に買った、赤みがかった革を鞣したジョッキーブーツを、鉄製の階段が跳ね返すように足音を響かせる。


近所迷惑だと言われない内に、一気に階段を下ってしまおう。


でも、何処かへ行くって事は、部屋の掃除は後回しにして正解だったって事よね。


目まぐるしく変化していく考え事を処理しながら、素早く階段を下りきった。
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