太陽に手を伸ばしても





「絶対間に合わんな、あいつ」

スマホの待ち受けの時計を確認しながら、智己が笑った。


「そろそろ俺らも行くか」


立ち上がった智己の下から、校名入りのつぶれたエナメルバッグが姿を見せた。
これの上に座っていたらしい。


僕も帽子に付いた砂を払ってしっかりと被ると、外に出た。


高嶺の花、か。

僕はさっきナス志に言われた言葉を思い出していた。

生徒会役員。成績も優秀。しかもかわいい。おまけに相手はあの頼斗だ。



校舎のほうからわあきゃあと楽しそうな声が聞こえる。
渡り廊下を、重そうな段ボールを持った男女が横切っていく。
二人とも楽しそうに笑っている。



 
僕たちの学校にもついに文化祭の季節がやってきた。


雰囲気で「ついにやってきた」、とか言ってみちゃったけど、正直、文化祭に参加している実感は全然ない。

僕はクラス出し物の話し合いや役割決めをしたときにはまだこの学校にいなかったから、なんかよくわかんない立ち位置なのだ。

学校全体で決められたことについては千夏から少し聞いてるけど、なんだか今一つって感じだった。


転校してきたばかりで、ただでさえ右も左もわからないのに、周りは自分が知らないうちから一つの目標に向かって進んでいるからますますどうしていいかわからない。
途中参加って、結局これだから面倒だ。
 



僕が準備に関わらないのは、野球部の練習日の多さだけが理由なわけじゃないのはわかってるんだけど、どうしてか自分からグイグイ入って行く気にはなれなかった。
なんか正直、とっかかりがもう無かった。


だけど何にも関わらずに終わっていくのもなんか嫌な気がするから、バンド発表くらい出てみようかなとか考えてみる。


 
クラスの出し物とは関係のないバンド発表は、確かまだエントリーが締め切られてなかったはずだ。



< 10 / 139 >

この作品をシェア

pagetop