太陽に手を伸ばしても
3
「そういえばさ、伊藤くんって大阪から来たわりには全然関西弁話さないよね~」
ドリンクバーからオレンジジュースを取って戻ってきた中井さんが、僕のななめ前に座る。
中井さんはショートヘアーで、だてメガネみたいなでっかい眼鏡をかけた女子だった。
「まあ、確かに」
僕がそう言うと、
冷てっ、
と横で智己が吐き捨てるようにつぶやいて、
「こいつ、もともとこっちの人だから。大阪だって3年ちょいしかいなかったからさぁ」
と、僕のことを小突きながら付け加えた。
「こんなことでなに緊張してんだよ!」
智己は顔をしかめて僕にしか聞こえないように言う。
「お見合いじゃないんだからさあ!!」
「…いや、あんま話したことないし」
僕の目の前には栗本さん、その隣にはさっき僕に話しかけてきた中井さん。
僕の横に涼が座っている。
まだ、僕はこの3人とさほど関わったことがない。
ちなみに智己はいわゆる"お誕生日席"。
僕たちバンドメンバー5人は、話し合いのためにファミレスに来ていた。
結局、ここに千夏はいない。
生徒会役員は文化祭全体の準備に追われるため、こういうことには参加できないそうなのだ。
話を思いついたときのウキウキ感が大きかっただけに、断られたときのがっかり感は半端じゃなかった。
まぁお互いに頑張ろう、としか言えなかったのだけれど。