太陽に手を伸ばしても
「じゃあさ、歩きながらでいいから聞いてよ」
私の少し後ろで陸が言った。
「あ、別にこれ、軽ーく聞き流してもらっても全然いいから」
「え?それどーゆーこと??」
「いや、だからそんなに真面目に、っていうか真剣に聞かないでってこと」
「わかった、話してよ」
「ぜったい真面目に聞くなよ」
陸は何度も念を押す。
私たちは駅を目指して歩いていた。
お互い目も合わせずに、顔すらも見ずに、前だけを向いて言葉を交わしていた。
こんな時がずっと続けばいいのに、と思った。
そういえば陸はあんなに念を押したわりに、なかなか話し始めない。
そう思った、そのときだった。
「あのさ、僕、千夏のこと好きなんだ」
私も陸もそのまま歩き続けていた。
「言いたかったこと、それだけだから。返事とかも、別にいいから」
明るい陸の声は少しうわずっているように聞こえた。
「だから、これからも、よろしくな」
私も、陸も、さっきと変わらずに前を向いて歩き続けていた。
まるでさっきの言葉なんて存在しなかったかのように。
私は歩いた。
陸がこっちを見ることもなかったし、私も陸を見られなかった。
端から見たら冷静に歩き続けてたように見えてたかもしれない。
だけど実は、心臓が止まりそうな、ぎゅっと締めつけられてしまいそうな、さっきまで引っ込みかけていた涙がまた溢れ出してしまいそうな、そんな感覚がして、とても頭を動かせる状態ではなかっただけなのだ。
こんなとき、私は何を言えばいいのだろう。
陸の言うとおり、真面目に聞いてなかったふりでもすればいいのだろうか。