太陽に手を伸ばしても









「演奏が終わります!」


「はい!」


「そしたら陸がこう言います!」


「………。」




「…言えよ」



「あっ、あ、うん。『今日僕はここに来ている一人の人に伝えたいことがあります』、はい」



「なんで棒読みなんだよ!こんな大事な時にさあ!!そーゆーとこなんだよお前!」

智己が僕を指さして勢いよく立ち上がる。
なだめながら智己のTシャツを引っ張る涼。

智己は不満そうな顔を作って元の位置に座りなおす。





ついに、バンド発表、当日。


本番が迫ってきた僕たちは体育館のステージ裏で出番を待っていた。

全校生徒が一堂に集まった体育館は、かなり蒸し暑くなってきている。



そんな息苦しい舞台裏で出番を待つ僕の気持ちは、まさに憂鬱そのものだった。

今日までの二日間、いろいろなクラスの出し物や模擬店があったにもかかわらず、このことばかりが頭を占めて、どれも全然楽しめなかった。

智己はもっと楽しんじゃえって言ってたけど、そんなのこの僕には不可能だ。



このあとおそらく両思いの相手に告白しようとしている人に対して、まったくの第三者がのこのこと出てきて思いを伝える、なんてさ。
千夏はこんなに間の悪い人のことをどう思うんだろう。


少なくとも、あんまりいい気はしないだろうな。



もうこれは公開処刑なんじゃないか。
こんなことだいぶ前からうすうす気づいてはいた。

だけどバンドのみんなが着実に準備を進めてくれていたのもあって、ドタキャンなんて絶対にできない空気だ。
てゆーか、そんなことしたら後で智己に何て言われるか。
想像しただけで恐ろしい。


< 28 / 139 >

この作品をシェア

pagetop