太陽に手を伸ばしても



僕の視線の先で、千夏が微笑んでいた。
いつもと変わらない、明るくて満面の笑みだった。


だめだ。
僕はやっぱり弱い人間だ。


僕は自分でもびっくりするくらいにそらぞらしい声で、出来る限りの余裕を装って、マイクに向かって言った。





「ありがとうございました、以上、D組の発表でした!」
 

こんな僕にはもったいなさすぎるほどに、盛大な拍手が体育館に響いた。


僕は客席に向かって深々と頭を下げた。
頭に降りかかる拍手。
みんなは頭、下げてるのかな。

拍手はまだ、鳴り止まない。
自分で言うのもなんだけど、僕たち演奏、けっこう上手かったから。


みんなの力を結集させた作戦は、あまりにも盛大な雰囲気を醸し出しながら強制終了した。





"ありがとうございました、以上、D組の発表でした"


予定もしていないこんな言葉をすらすらと言えてしまう自分が情けなかった。
後ろのみんなはどんな顔をしただろう。
横に立っている栗本さんは僕のことをどう思っただろう。


頭を上げても、僕は後ろのみんなを振り返ることができなかった。
こんな勝手なことしておいて。



照明が消える。
幕が降りてきた。
もうこれで全部終わった。
僕が終わらせてしまった!!!




メンバーのみんなには本当に悪いことをしたと思う。


だけど、こっちの気持ちにもなってもらいたい。

千夏が頼斗に告白するのを知っておいて、大勢の前なんかで告白してどうするんだろう。
千夏を困らせてどうする気なんだろう。



そんなことやっても、何も変わるわけないのに。



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