太陽に手を伸ばしても
ふたつの試合
1
文化祭の次の日。
僕たち野球部員は練習試合に向かうバスの中で、すし詰めになっていた。
練習試合の対戦相手はなぜか県下最強の強豪校だし、よりによって久しぶりの部活で体はなまりまくりだし、不安材料だらけなはずなのに、なぜか車内は遠足気分だ。
狭い車内は、エネルギーが有り余った部員たちの声ではちきれそうになっている。
そんななかで、憂鬱な気持ちの僕が一人。
結局、千夏には何も言えず、千夏があれからどうなったのかすら、誰にも聞けていない僕。
終わったことを知ったところでどうにもならないのはわかっているのに、知るのがとにかく怖かった。
さっきだって、僕はできるだけ千夏の顔を見ないようにしながらバスに乗り込んでいた。
なんか、千夏に話しかけられるのが嫌だったから。
「そういえばさ、結局、クラス発表の大賞ってどこだったんだよ」
「そんなの言えねーよ!!明日まで待てよ!」
僕の隣と後ろにいる智己とナス志もどことなく浮かれてるみたいだ。
「いーじゃんか言ってくれたって!!お前、意外とケチだなあ」
「あと1日が待てないのかよ。1日だぞ」
「待てねえよ!俺だって自信あんだからさ」
そう言えばあのバンド発表のあと、僕はみんなから悪いことをしたと謝られた。
正直、かなりびっくりした。
てっきりみんなからボロクソに怒られると思っていたから。
だって、さんざんいろいろ計画して、練習までして、それで本番になってみたらやりませんでした、なんてそんなことありえないじゃん?
だけどみんなはみんななりにノリだけで断りにくい雰囲気を作ってしまって申し訳ないと思ったらしい。