太陽に手を伸ばしても






「そういえば、あのあと、千夏と頼斗がどうなったか、知ってるかー?」

高いテンションのまま、ナス志が言う。



「いいわ、今は、ちょっと、その話やめとこ?」


「そんなこと言うなよー、陸。ああ、あれは文化祭が終わり、生徒会役員のみんなで片付けをしているときのことだった。」



「おおーっ!??」

智己が身を乗り出しておおげさにナス志を煽る。


「もういいもういいもういい!」

僕は智己を急いでけん制する。



「なんでだよー、さっさと聞いちまおうと思ったのに」

「嫌だよ。試合前に精神が乱れるような話いちいち聞きたくないんだよ」

「まあ、確かにそれはあるか…」

「な」

「なあ」


トーンダウンする智己とナス志。



危機一髪。ぎりぎりセーフ。

大事な試合の前に、聞きたくないことを聞いてしまうところだった。

僕はふう、と息をついた。




同級生も、一年生も、あいかわらずみんなガヤガヤ騒いでいる。

昨日までの文化祭の空気をあいかわらず引きずっているようだった。
知っているとおり、相手はめちゃくちゃ強いのに。




向こうの方に例の強豪校が見えてきた。

グラウンドに出てみんなでウォーミングアップをしているようだ。

それに比べて、こんなでいいのか、僕たちは。



バスが大きく旋回して、車体を大きく揺らしながらグラウンド横の駐車場に止まった。

ここまで来たところで、僕にもやっと、野球の方にだけ意識がいくようになってきた。

こんなことばっかり考えてないで、今、目の前にいる相手に勝つことだけ考えなきゃ。


また千夏を見ないようにしながら、バスを降りる。



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