太陽に手を伸ばしても
一回の裏は相手チームの攻撃。
先発ピッチャーは僕、伊藤陸。僕の出番だ。
キャッチャーの智己がサインを出す。
僕はそれを見てうなずく。
バッターが構える。
僕は腕を力任せに振り下ろす。
ボールが指を離れたその瞬間だった。
僕の視界に、ベンチに座っている千夏の姿が飛び込んできた。
視界をかすめたのはほんの一瞬のことだったのに、僕の目には今日初めて見た千夏の顔がはっきりとこびりついていた。
グラウンドを遠い目でぼうっと眺める千夏。
その目は、いっぱい泣いた後みたいに赤く腫れていた。