太陽に手を伸ばしても
「初球からホームランって、お前何やってんだよ」
振り返ると、僕のすぐ目の前まで智己が近づいてきていた。
頭の切り替えができない僕は、返す言葉が浮かばない。
「なんか返事くらいしろよ、バカ!!」
そう言う智己の後ろにはあいかわらず千夏の顔が見え隠れしている。
「陸」
智己は低い声でそう言い、マスクの中から僕を鋭い目付きでにらんだ。
しまった。
遅ればせながら、僕はここでようやくはっとした。
や、やばいな。
智己になんと言おうか考え始めたその時だった。
「陸!!ベンチの方は気にすんなー!!」
ナス志だ!
後ろを振り返ると、ナス志がグローブを手でぱんぱん、と叩いて笑っていた。
満面の笑みだ。
そうだ。
こんなことで気をとられてちゃいけない。
「ここから、何とかするから」
そう僕が言うと、智己はグローブを僕の肩に軽く押し当てて、何も言わずにうなずいた。
うつむき加減の智己の表情はこっちからは読みとれなかったけれど、なぜだか静かな安心感を覚えた。
そして智己はまた、自分の定位置に戻っていった。