太陽に手を伸ばしても
3
「やっべーーー!!!」
授業開始1分前の予鈴が鳴るなか、智己が階段を三段飛ばしで駆け上がっている。
僕もその後を追いかける。
朝練のある日はいつもこんなギリギリの朝だ。
まだ日の差し込みきらない校舎の裏階段の踊り場を下から見上げると、窓いっぱいの青空だ。
踊り場が暗いぶん、青空がそこだけ四角に切り取られたみたいに見えている。
朝起きたときの僕のもやもやした気持ちとは裏腹なくらいすっきりとした天気だった。
「陸、遅いなーー!!置いてくぞー!?」
踊り場までたどり着いた智己が、僕を見下ろして言う。
「そんな速く行けないってば」
僕は息を切らしながら階段を登る。
朝練終わりでも智己の体力は半端ない。
今日がいつも通りの朝で本当によかった。
朝練の時も、ナス志も智己も例の一件についてはもう口にしなかった。
僕の方も、いつも通りの朝練をこなしているうちに、だんだんと傷が癒えていた。
というか心のざわつきを忘れてきていた。
問題はまだ解決されてない。
結局、千夏がどうなったかも僕は知らない。
だけど、そんなことすらも忘れさせてくれるような、穏やかで忙しい朝だった。
もう一度、チャイムが鳴る。
本鈴と同時に教室に滑り込んだ僕は、リュックを下ろし、教科書や筆箱を机の上に出す。
そこでふと、前の方の席を見る。