太陽に手を伸ばしても




同じくリュックを下ろして席についたばかりの智己が後ろを向いて、すぐ後ろの席の頼斗に話しかけているのが見える。


何を言っているのかは聞こえないけど、頼斗が何かしゃべっているようだった。


智己は初めはニヤニヤしながら聞いていたけど、しばらくすると妙に真面目な顔つきになって、

「そうか」

と言うように、口を動かした。ように見えた。




なんだろう、これは。
いつになく神妙な空気だ。

千夏、やっぱ、振られたのかな。
 
この前の千夏の泣いた後みたいな顔はやっぱりそういうことだったんだ。



なぜか僕は、確実にショックを受けていた。

今までの僕なら千夏と頼斗が付き合わないのが一番の願望で、それが思い通りの結果なはずだった。

なのに、この気持ちはいったい何なんだろう。


千夏の恋が実らなくても、これがチャンスだとは僕はどうしても思えない。

むしろ千夏と一緒にいられる機会が奪われたんじゃないかって、そう思うんだ。

だって、それくらい、最近の僕たちの話題は、というか、千夏が話してくるのは、頼斗との話ばかりだったから。




『最近頼斗が冷たい気がするんだけど、私、なんか言っちゃったかなぁ?』

『気のせいだよ、いつも仲いいじゃんか』


『頼斗はどんな髪型が好きだと思う?』

『千夏の方がそーゆーの詳しいだろ??僕、転校生だよ?』


___こんな何気ない会話を僕たちから取ったら、残るものはあるんだろうか?

それに、あんなに仲良さそうだったのに、生徒会の仕事だって、頼斗の推薦で一緒にしていたのに、どうして千夏は振られてしまったんだろう?

僕の頭の中に浮かんでくる疑問は尽きない。

考えてもどうにもならないことくらいわかっているのに。


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