太陽に手を伸ばしても
頭にかけたタオル越しに隣の千夏を見ると、千夏は少し目を細めて、白いテントのさらに向こうの方を見ている。
「私さ、頼斗に振られちゃったんだ」
しばらく続いていた沈黙が破られて、一瞬、周りの音が止まったような感じがした。
千夏はまだ遠くの方を見たままだった。
何かをこらえるみたいに、声には少し力が入っているみたいに感じた。
だけどあくまで冷静だった。
「…そ、そっか」
もうさんざん知っていたことのはずなのに、いざ本人の口から知らされると、かける言葉が全然思いつかなくなる。
困った僕が黙っていると、千夏がまた言葉を続ける。
「私はいい仲間だし尊敬してるけど、そういうのじゃないんだって」
「今まで頼斗のことだけ見てきたのに、頼斗につりあう人になりたくてずっと頑張ってきたのに」
「私、最初から全然つりあいとれるような人なんかじゃなかったんだな、って」
「そんなことないよ」
力なく、ただただ自分のことを否定するような千夏を見て、僕の口からひとりでに出てきたのはこんな言葉だった。
言ってみたはいいものの、またもや僕は続ける言葉が見つからない。
どうしていいかわからずに千夏の方を見ると、千夏もはっとしたように目をまんまるに見開いてこっちを見ていた。
だけど、
「そんなことない」
それしか言えなかった。
弱いな、自分。