太陽に手を伸ばしても
俺たち野球部の新エース、伊藤陸がクラスの女子の栗本里奈に告白されてから1週間と少しが経っていた。
あれからあいつの消極的な気持ちに火がついたようで。
この試合に勝ったらとうとう千夏に告白する、らしい。
だから今日こそは勝たなきゃいけない。
何がなんでも、俺たちは勝たなきゃいけないのだ。
たとえ俺たちに立ちふさがる相手が、優勝候補の強豪校だとしても。
パンパンに膨れ上がったバッグを肩にかけて階段を下りていくと、ふわっと、いい匂いが立ちのぼってくる。
澄んだ秋の空気に玉子焼きの匂い。
何かとざわつく心を静めるように、胸いっぱいに吸い込んだ。
陸は今どうしてるだろう。
きっと今ごろ緊張でガッチガチになってるんだろうな。
何しろ陸は、栗本さんの気持ちを背負っているのだから。