太陽に手を伸ばしても
俺は思わずまた栗本さんの方を向いた。
電車がゆっくりと止まって、ドアが開いた。
電車から人が出たり入ったりしている間、なぜか俺たちは黙ってそれを見ていた。
だけど俺の頭の中は栗本さんの話の先が聞きたいことでいっぱいだった。
「私ってさ、 『たとえどんな状況だとしても、 気持ちは伝えた方がいい』
みたいなスタンスで動いてると思われてると思うんだけどね、」
電車が動き出すと、栗本さんはまた話しだした。
「でも、本当は違うんだよね、私」
てゆーか、違うってより違ってた、って感じかな、と栗本さんは「た」のところだけ強調するようにつぶやいた。
「文化祭で陸くんに告白してもらうことになった時もさ、内心、あそこでけじめつけて欲しいなぁ、なんて思っちゃってたんだよね、実は。
それで、そしたら私の方も見てもらえるんじゃないかって。
…全部、後になってから気づいたんだけど」
「……」
「だけど、陸くんの告白もうまくいかなかったし、しかも千夏ちゃん、頼斗くんにフラれちゃったじゃん?
全部想定外だったんだよね」
「わかる」
「あの二人は付き合うと思った。で、陸くんはそこで諦めるんだと思ってた。でも、実際は陸くんに最大のチャンスが回ってきたわけじゃん?」
「確かに。」
「だから、もう、私自身が自分の気持ちに区切りをつけようって思ったの」