太陽に手を伸ばしても
*
千夏が来たのは、それから2時間くらい後のことだった。
智己たちが帰ったあと、入れ違いで親が着替えや荷物を持ってきてくれた。
荷物に入っていた漫画を読みながらひまをつぶしていると、ドアがガラリと開く音がする。
「りーく」
僕が体を起こしたのとカーテンから千夏の顔がのぞいたのはほぼ同時だった。
「大丈夫だった?」
「うん、まあまあかな」
「よかった。本当に良かった………ちょっと待ってね」
千夏はそう言うと一旦カーテンの外に出た。
しばらくがさがさと音がして、もう一度姿を見せた時に千夏が持っていたのはなんと大きな花束だった。
「急いで買って来たんだ。でもだいぶ遅くなっちゃったよね、ごめんね」
冷たい消毒液のにおいとは対照的な、花の甘い香りを肺いっぱいに吸い込む。
「うっわ、めっちゃ、いいにおい」
「でしょ?こういう香りがあったら、なんかちょっとでも心が和らぐんじゃないかな、って思って」
千夏がここいい?と言いながら横に出ていたいすに座った。
ちょっと倒れて今病院にいるくらいでこんな花束もらって、なんか少し恥ずかしくてくすぐったいような気持ちになる。
「体調、大丈夫?」
触れられたくないことを聞かれたような気がして急に心臓がどきっ、とする。
「うん、とりあえず明日の朝から検査だけ受けることになってる」
「そっかあ」