太陽に手を伸ばしても
「…そうだな、確かに点滴に紅茶は入ってないもんな」
これ以上、言葉が出て来なかった。
口を開けば弱音ばかりこぼれてしまいそうだったから。
弱いな、僕は。
「じゃ、私そろそろ行かなきゃ」
腕時計を見ながら、千夏が立ち上がった。
「今日はありがとう、紅茶も…あと花も」
だけど、本当は来てくれたことが一番嬉しかった。
「また連絡してね、寂しくなったりしたら。すぐ返信するから!」
手を振りながら千夏はカーテンの向こうに姿を消していった。
間もなく、千夏がドアを閉める音がする。
そこで初めて、試合で勝ったら千夏に告白するんだった、ということを思い出した。
ついでにいうと、智己たちが来ていたとき、そこに千夏がいなかったことですら、その時は気づいていなかったのだ。
センバツへの道が閉ざされたことへの悲しさと、知らないうちに道が閉ざされていたことのやりきれなさが、今になって僕を襲った。
そう気づいた瞬間、何かがぷつんと切れたように僕の頬を涙がつたっていった。
でもそれは、みんなが涙を流したような悔し涙ではなく、先の見えないことへの不安の涙だった。