太陽に手を伸ばしても




「話、もうちょっと聞いてくれるかな?ジュースでも何でもおごるから」


その人は弱ったような笑みを見せてそう言った。



* * *



それにしても、ジュース一本くらいで話に乗ってしまうほど僕が簡単な人間だったとは。 


だけど、一人で検査の結果を待つのよりは誰かと話している方がずっといい。

もっと言えば、誰か自分以外の他の人の一方的な話で気をまぎらわせたかったのかもしれない。



「ジュース、何がいい?」




で、僕は例の女の人と、自販機の前に立っていた。
そう僕に聞きながら、女の人はスポーツドリンクに手を伸ばした。





「あっ」


「何?」


 「せっかく飲むなら、スポーツドリンクじゃない方がいいと思います」




僕の意見ですけど、と小さく付け加える。


「何で?」


「点滴の中身はスポーツドリンクと一緒らしい、から」


「そうなの?」


「せっかく飲むんなら、点滴じゃ飲めないものにしたほうがいいと思って」

間違えた。点滴は飲めないか。
まあいいや。


「じゃあ、やめとこうかな」


そう言って、女の人はのばしかけた手を戻した。


この人は、一体どんないきさつでこの病院に来ているのだろう。

いつからここで、点滴をしていたんだろう。




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