太陽に手を伸ばしても
転校してきたばかりの僕はともかく、高校1年の時から頼斗を知っている智己でさえ頼斗から女子の話は聞いたことがなかったらしい。
そんな頼斗が、別に彼女とかではないにしても女子の中から一人、選んだのだ。
しかも、千夏を。
正直、僕の初恋はここに来て終わったな、と思った。
そんなことがあってから、千夏は生徒会副会長として、頼斗は生徒会長として、この学校の中心的な存在になっていった。
その代わり、忙しくなった千夏は、マネージャーとして野球部の練習に参加することがだいぶ無くなった。
僕からしたら、千夏と一緒にいられる時間が減ったから本当にいい迷惑だ。
生徒会副会長になって自信を持ったのか、それとも頼斗に選ばれたことが嬉しかったのか、千夏は見違えるほどにどんどんキラキラしていくように見えた。
昔の雰囲気なんて見当たらないくらいに。
こんなシンデレラストーリーを僕は正直初めて見た。
小学生のとき、目立つ方の女の子の横で控えめに笑っていた、おとなしくて優しい、千夏のことが僕は好きだった。
後になって智己から聞かされたんだけど、千夏も、僕のことが好きだったらしい。
でも、それはずっと後に聞かされた話だ。
何も知らなかった僕はなかなか勇気が出せず、そのまま卒業式の日を迎えてしまう。
小学校卒業くらいどうってことない、中学校も一緒なんだから、って思ってたのが大きな間違いだった。
その春、僕はお父さんの仕事の関係で、ここ、名古屋を離れることになってしまったのだ。
やっと帰ってきたらこの状況。
しかも相手が相手なだけに勝ち目なし。
僕は少し考えが甘かったのかもしれない。