太陽に手を伸ばしても
* * *
「頼斗のやつ、大丈夫かな」
部活の練習の帰り道、僕と2人きりになったところで智己がぼそりと呟いた。
「な」
僕も何よりも頼斗のことがただただ心配で仕方がなかった。
本来なら心配しなきゃいけないのは頼斗のほうじゃなくてミカさんのはずなんだろうけど。
「俺、あんな頼斗、初めて見た」
「僕もだよ」
「あの試合の次の日にさ、」
「うん」
「あいつ、ちょうど前の日に彼女に突然一方的にフラれたって言ってずっと落ち込んでてさあ」
「…そうだったんだ」
「頼斗だって人間だから当然なんだろうけどさあ、」
「うん」
「頼斗もあんな風に落ち込むんだ、って思った。変だよな、俺。…笑うよな」
「………。」
僕は笑えなかった。
もし僕が智己だったとしても、智己と全く同じことを思うような気がしたから。
さっき僕も憔悴する頼斗を見て、同じことを感じたから。
毎日会って、他愛もない話をする、同じクラスのいつもの友達なはずなのに、僕たちは頼斗と自分たちの間に、無意識に壁を置いていたのかもしれない。
気づけば、僕は頼斗のことを何も知らなかった。
頼斗のこと、『何でもできちゃう、イケメンでかっこいい優等生』だなんて、僕はなんて幼稚なものの見方をしていたんだろう。
そこには、本人と直接会って話して知ったことなんて一つもなかったはずなのに。
きっと僕だけじゃない。
僕の周りの人だってそうだ。
頼斗に彼女がいることすら、誰も知らなかったのだから。
だけど、どうしてミカさんは、頼斗を、あの頼斗を一方的に振ったりしたんだろう。