幸せの出会いかた
5
いつもより遅い8時過ぎの金曜日の車内は、仕事帰りに一杯飲んでから帰る人もいるようで、お酒の匂いがした。

(私も今日、なにか飲もうかな)
そう思いながら、最寄駅に降りた。

他の車両に乗っていた人たちと無言で合流しながら、改札へつながる階段へと向かう。



その流れの中に、

あの男性がいた。

あの男性も、私に気づいてくれたようだ。

男性もびっくりした顔をしている。

どう挨拶しようと戸惑っていたところ、男性から、
「おつかれさまです」と、声がかかった。

そう言えば良かったんだと、同じように、
「おつかれさまです」と返す。

男性は、改札への流れから外れたので、私もそれにならった。
自動販売機付近に動く。

「同じ駅で乗り降りしていたんですね。気づかなかったです」

「いや、本当はもう一つ前の駅の方が近いんですが、今日は、こっちの駅に近い飯屋で、飯食って帰ろうと思って降りたんです」

「そうだったんですね。また偶然に会いましたね」と、笑いながら声をかけると、
男性にやや見つめられたような気がした。


「あの、俺、あなたに、「いってらっしゃい」と言われた日、二日とも、仕事で良いことがあったんです」

えっ?


突然言われ、驚きで声にならず、相手の顔を私も見つめる。


良いことがあったの?

仕事で?



そう心で問いかけながら、胸がグッとあつくなる。

彼は、そのまま私を視線をそらさず、言う。
「俺に言ってくれて、その、ありがとうございました」


私、あなたの運を悪くしてないの?






良かった。


じわじわと目頭があつくなり、涙をこらえることができず、泣き顔を、見せてしまう。










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