幸せの出会いかた
(私の持っていた仕事に対するとらえ方と、同じような考え方の人がいた。)

また目がうるんでしまう。
同じ考えを持つ人がいたうれしさと、元彼がそこまで窮地に立たされていたのを救えなかった悔しさが、混ざってのことだった。

山中さんは、またしても泣きそうな私を見て、頭をガシガシかきながら困った顔を見せ、ビールを再び飲み出した。

その姿を見て、気持ちを切り替えなくてはと、涙をふき、山中さんの方に顔を向けた。

「すみません、泣いてしまって」

「いえ、こっちこそ、言いたいことだけ言って、すみません」

「あの、私は、あの時どうしていたら彼が落ちついて仕事を続けてできていただろうか。自分の対処の仕方次第で、人の人生は変わると思っていました。」

山中さんは、そのまま聞いてくれている。

「頑張ってと言わなかったらよかったのか?と考えたこともあった。ただ寄り添うだけで良かったんだと思うけれど、それが彼にとってベストな答えだったかわからない。どんなふうにしたらよいかをいくつ考えても、不安な気持ちがぬぐえないならば、あの時がんばってと言ったことに、もう後悔しちゃいけないのかなと、思えてきました。」

「うん。そう思えれば、いいんじゃないかな。傷を残すような言葉は余分だったけど、お互いの気持ちや言動が、かみ合わなくなったから、別れに至った。そういうものだと思う。」

心のもやが、少し消えた気がした。


「いろいろ突然でしたが、山中さんとお話しできてよかったです。ありがとうございました。」

「ホームで泣かれた時は本当にびっくりしたし、ちょっとどうしようか焦ったけど、戸田さんが暗示から解かれてよかった。手助けできてよかったよ。」

目が合い、乾杯をした。

山中さんは腕時計を見て、
「そろそろ時間だね。今日は晩飯につきあってくれてありがとう。」

「いえいえ、こちらこそ、本当にありがとうございました」
しっかりとお礼の気持ちをこめて、おじぎしながら伝えた。

これを見て、ほんの少し顔を背けた山中さんは、もう一度私の方に向き直し、

「あの、またこうやって飯食べたり話したりする仲間になってください。」

(えっ、えっと、仲間って、友達ってことだよね?)
問題はないのだが、仲間の意味をどうとらえたらいいか若干困っていると、山中さんは、慌てて言葉をつないで、

「友達というか知り合いでという意味です。突然言って怪しませてしまいました。すみません。あの、思いがけずの出会い方だけど、この縁を終わりにしたくないんです。」

縁という言葉に、どきっとした。
(東京でできた縁。
山中さんは男性だけど、仕事の捉え方も似ている。今日は落ちついて話せたし、話をしっかり聞いてもらえた。また話してみたいと思う)

「はい、友達になってください。」

山中さんは、ほっとしたような表情で、
「よかったです。うれしいです。」
にっこり笑ってくれた。

「これから、よろしくお願いします」
「私こそ、よろしくお願いします」

そう言いながら笑い合って、連絡先を交換し、駅まで一緒に帰り、バス停で別れた。
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