幸せの出会いかた
前髪だけをワックスで流した短髪黒髪、さっぱりとした顔立ちで、今風で言うと塩系イケメンというのだろう。
ビジネスビルが多くあるあの駅で降りるならば、どの会社なのだろう。
社章を見てもわからないなぁ。
と、勝手に推理していたところ、男性が口を開いた。

「なぜ引っかかってしまったのかわからないですが、本当に申し訳ありませんでした」

「あっ、いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。それに一駅乗り越しさせてしまい朝の時間にごめんなさい。ありがとございました」

「あっ!あの、痛い思いをさせてしまったので、なにかおわびを」
同時に、男性は名刺を私に差し出してきた。

「いえいえ、そんなとんでもない!?そんなお名前お聞きするほど大ごとでもないので!」
名刺をいただいてはいけない。手を振り押しとどめた。

自分のスーツ内側ポケットに、名刺を戻しながらも、
「でも、女性の大事な髪を」

「気、気にしないでください、私も今日に限って縛ってなくて、それがこれを招いてしまったわけですし、ほんと気にしないでください」

こんなに気にしてくれて、優しい人だな。でも、おわびだなんていき過ぎている。

それに、近づきすぎてはいけない。

ここで話を止めなくては堂々巡りだと思った時、自分の方向と男性が乗る反対方向共に電車がホーム入るアナウンスが入った。

「あっ、電車来ますよ。私もそろそろ乗らないと遅刻なので。あっ、この電車に乗って仕事に向かってくださったらそれでいいです!」

男性がそれを聞いて、驚いた顔をする。

そして、少し黙る。

「それでいいんですか?」

と、不服そうな顔をしていたが、そうしてもらいたいため、「はい」と、私はぶんぶんとうなずく。

その必死な様子を見てか、男性は、
「ではそうします」
と、言ってくれた。

お互いの電車がホームに入り、ドアが開く。

「では」と、私は動きだしたが、男性は動かない。これでは男性が乗り遅れてしまう。

とっさに、

「いってらっしゃい」

と声をかけた。

男性は、とても驚いた顔をしたが、その後、初めて見せた笑顔で、
「いってきます」と言い、電車へと乗り込んでいった。

「はぁあ〜、びっくりしたぁ」

今頃になって、ドキドキしている。
なんとかして落ち着かせようと、隙間なく建てられている家々を車窓から眺めていた。
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