漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
(争いが起きて民を守ることが役割と言うが、俺が実際にやっていることは物を破壊し、人を殺すだけ)


だから『聖乙女』はそれゆえに稀有で重い存在なのだ。

なのに、狭い宮に生涯籠って祈るだけで終わるとは…。


(これなら、囚人と変わらないじゃないか―――)


「って…なんすか…」


という切実な思いをよそに、アンバーが新緑色の目を無邪気に見開いて自分の腕を見つめてきたので、ファシアスはたじろいだ。
国境の警備で怪我を負っていた。大したことはないが、包帯を大袈裟なくらいに巻いているのが気になったらしい。
ここに来る前に解いておけばよかった、と後悔したが遅かった。


「ちょっとドジふんじまって。たいしたことないすよ」

「たいしたことあるわよ…!」


「お見せなさい!」と、アンバーはファシアスの太い腕を両手で引き寄せた。そしておもむろに包帯を解き始めた。


「お、おい」


ファシアスは焦った。
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