漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
朝の祈りを乗せた言霊は、爽やかな風と共に晴天へ消えた。
空が高い。
常春と言われるサンポリスにも、夏が訪れようとしていた。


「あー。今日も憎らしいくらい、いい天気だ」


アンバーの横で不服げな声が聞こえた。最近勉強ばかりで煮詰まりぎみの若き王太子アーロンだ。
今も王宮の中庭で勉強をしていた。アンバーはそのお目付けとして宮から出てきていた。


「こんなにいい天気なのに、俺は一体なにをやってるんだろうな。昨日も今日も朝から晩までずーっと勉強、勉強」

「ふふふ、これも王太子の務め。よき王になるため、仕方ありませんね」

「はぁー。兄上がいた頃はよかった。なににも縛られることなく毎日楽しく遊び暮らせてたからな」


と皮肉を言うが、アンバーはニコニコして聞いてばかりいる。言うほどアーロンは王太子になったことに不服を感じていないことを知っているからだ。

朝から晩まで、というがそれは自らそういうスケジュールを望んだのだし、外出だってむしろこちらから勧めているのに、なんだかんだと文句を言いつつ行こうとしない。
突然の立太子だったが、潔くその運命を受け入れ一日でも早く王太子に足る人物になろうと努めているのだった。
アーロンとはそういう人間だった。エルミドよりずっと何十倍も、王に相応しい人物と言えた。

とは言っても、やはり話し相手は欲しいようだ。だから、こうしてアンバーを宮から呼び立てて愚痴の聞き役をさせている。
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