漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「この広い国には、私の『力』が及ばぬ小さな地域がたくさんあるのです。今もどこかで飢えに苦しんでいる人々がいるかもしれない…でも、確かめる手段がない…そう思うと、『聖乙女』などと尊ばれることに歯がゆさを感じてしまうのです。私にはまだまだ知らないことがたくさんあるのに…」

「そなたは本当に心やさしき人間だな。だが『聖乙女』よ。人はそれほど弱くはないぞ」


はっとしてアンバーは王太子を見やった。
言う通りだった。
兵たちの間で広まった自立的な気運は少しずつ民にも広まり、天候に左右されない農業への改良や協力体制づくりが始まり始めている。『聖乙女』の加護なしでは生きられない生き方から脱却しようとしているのだ。


「そうですね…。でも…だからこそ、もっとそばに寄りそいたい。ひな鳥を守るように庇護するのではなく、たくましく生きようとする人々を支えていきたいのです。そうすれば、この国はきっともっと幸せになるから…」

「そうだろうな。俺もそう思う」


その言葉が合図のように、中庭に背の高い男が入ってきた。
漆黒の衣服に身を固めたその姿は麗らかな陽の元でいっそう気高く力強く見えた。


「良いところに来たな、ファシアス将軍」
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