漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
ファシアスはうって変わって口調を尖らせた。

実はアーロンとは以前から仲が良かったのだ。
まさか王太子になるなど夢にも思っていなかった頃、親友のように接していて共に剣の鍛練にいそしみ、将来の国について語り合った。もちろん、真面目なこと以外についても、だ。

ゆえにアーロンはファシアスのアンバーへの想いを知っていた数少ない人物の一人でもあった。
だから突然の任命に面を食らって少なからず恨みの念を抱いたのだが…まさかこのような計らいがされるとは…。


(こいつはきっと期待以上にやり手の王になるかもな…)


ファシアスは参ったとばかりに息をついて口元をゆがめた。
そして膝をついて未来の王に感謝の意を示した。


「ありがたきご配慮感謝いたします。大いにはげみたいと思います」

「ああ、はげんで来い。たまには顔を見せに戻ってこいよ?」

「さぁどうですかね。王宮仕えなんて退屈だから、むしろとんずらこいて帰ってこないかも」

「言うなぁファシアス将軍。そうなったら今度こそほんとに逆賊として国中捜し回ってやるからな。おまえは俺のそばでこき使ってやるべき存在なんだから」


と、憎まれ口を叩きあって最後、アーロンはおもむろに立ち上がった。


「では、俺は城に戻って独り寂しく覇王学の勉強だ。暇な凡人たちは、後はゆっくり旅の行程でも話し合うがいいさ」

「…あの、お待ちをアーロン様…!」


アーロンが城へ戻ろうとすると、アンバーが駆け寄ってひざまずいた。
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