漆黒の騎士の燃え滾る恋慕

せつない矜持

「そ、そうだ、聞いたのだけれど、ジェンヌが婚約したんですってね?」


重苦しくなった空気を変えるように、アンバーが話題を変えた。

ジェンヌはイロアス家に仕えていた執事の孫にあたる娘で、今でもアンバーとは手紙をやりとりする仲だった。ファシアスの耳にも後を継いだジェンヌの父によって、その近況は知らされていた。


「ああ、結婚式は盛大なものにするそうだ」

「そうなの??ジェンヌならきっと綺麗でしょうね」


どうだろうな、とファシアスは思う。
ジェンヌは幼い頃はすばしっこく走り回る身軽な娘だったが、今はすっかり恰幅がよくなってしまっていてその面影はない。
手紙だけで交流しているアンバーのイメージの中では、変わらず細い娘のままなのだろうが…。


「気になるなら、自分の目で見に行けばどうだ」


突如言い捨てるように出た冷ややかな言葉に、アンバーは少し戸惑った。
どうして、急にそんな意地悪なことを言うのだろう。


「…無理に決まっているでしょ。私はこの宮から出ることは許されないのだから」

「村までは1日とかからない。その程度の期間宮を出たくらいで衰えてしまうもんなんすか、『聖乙女』の『御力』ってやつは」

「そ、そんなことないわよ」
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