漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
夏の陽射しのようにきらめく金髪。見透かすように澄んだエメラルドの瞳。

確かにアンバーは魅力的だ。会うたびに増していく女性らしさと神々しい美しさに、時折息が止まりそうになる。
だが、アレクの言う『儚さ』というものはアンバーにはないと思っている。それは民に見せる『聖乙女』像に過ぎない。


(俺の知るアンバーはもっと――)


正装を台無しにして木登りし雛鳥を助けようとした今朝のアンバーの姿を思い出す。
あれがアンバーの本当の姿だ。
ファシアスが知っている幼い頃のままの活発でお転婆な少女の姿だ。
ファシアスは歯がゆかった。


(皆は忘れている。アンバーは『聖乙女』になる前はただの人間の少女だったということを)


アンバーの名はアンバー・エチ・コゥリィー。
ファシアスと共に育ち常に一緒に遊んで学んだ。アンバーはとにかく快活で「女将軍になって、ファシアスと一緒に戦場に出るのが夢」と口癖のように語るような少女だった。気が強くて責任感が強くて、ひときわ優しい少女だった。

そんなアンバーに天啓が下ったのは運命だったのかもしれない。
だがファシアスにはそれは残酷な悪戯のように思えてならなかった。


(なぜ、アンバーなんだ)
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