漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
この日を境にアンバーは本格的な鍛練の日々に入り、『聖乙女』の『御力』を研ぎ澄ませていった。

ファシアスはアンバーとの約束の通り、王族や神官の目を盗んでアンバーに会いに行った。

会うごとにアンバーの『御力』が増していくのがわかった。それと同時に元の美しさに神秘めいた雰囲気が宿り、『御力』を操る清廉な精神と相まって神々しさが備わっていった。

宮の清浄な空気にいる肌や髪は絹のように煌びやかで、新緑色の瞳は『御力』を感じさせる貴石のような美しさ。春風を思わせる涼しげな声は不思議と癒してくれ、所作のひとつひとつまでもが洗練されていて、高貴な雰囲気を放っている。

のんびりしていたらアンバーがますます遠くに行ってしまう気がした。
だからファシアスも磨いた。アンバーのそばに居続けるため。独りで遠くへ行ってしまいそうなアンバーを見守り続けるため。


(アンバーを守るのは俺だ)


だが、そう言い聞かせるごとに、疑念が沸き起こってくる。


(本当に守りたいのだろうか)
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