漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
いつだって巡らすのは、どうすればあの清潔だけが取り柄の息苦しい宮から連れ去ることができるのか―――そんな恐ろしいことばかりなのに。


「ファシアス様」


物思いに沈むファシアスを窘めるようにアレクが口調をとがらせた。


「…お分かりだとは思いますが、アンバー様は国と結ばれた方。ゆめゆめ、それをお忘れになりませぬよう」

「……」

「本来ならば貴方の訪問だって許されざること。貴方様付きの側近である僕と一部の神官しか知っていないことからも、それは十分解かっていますよね?」


解かっている。
知った風な諫言。耳が痛いほどだ。

解かっている。
解かっているからこそ、余計に考えてしまうのだ。


ならばいっそ連れ去ってしまって、自分しか知らない場所に閉じ込めてしまおうか、と。
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