漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
そんな恐ろしいことをすれば、どれほどの混乱が起きるかはよく解かっている。だが、それ以上にアンバーをあの宮に閉じ込めておくことが、いや、『聖乙女』と武人として自分達が相容れない関係となっていくのがたまらなかった。

このまま武人として戦場の空気に穢れてしまえば、アンバーには一切近づけなくなる。なんという皮肉なのか。アンバーに追いつこう、釣りあう男になろうと積んできた努力がアンバーと永遠に隔絶されるための壁になってしまうなど、あってはならないことだ。
だが、どうすることもできない。


(ならいっそ、いっそのこと)


ファシアスの胸に狂気がかった企みが生まれてしまう。


ならばいっそ、『御力』を持たぬ『ただの女』にしてしまえば。
アンバーの清らかさを、奪ってしまえば―――。


(俺は、なにを考えているんだ)


そうして葛藤する。この国を守る武人たる自分が『聖乙女』をおとしめるなど。謀反とも言える所業だ。いや、国を滅ぼす悪行にも相応しい。


『ファシアス!』


しかしチラつくのは美しく、ファシアスを見た瞬間嬉しそうにほころぶ無邪気な笑顔―――自分と同じ十代の少女だった。
今朝抱きかかえたアンバーの身体を思い出した。
あの華奢な身体を抱き締め、二度と腕の中から逃がしたくなかった。まるで羽のような身体。あんなに軽いのなら、抱きかかえて遠くまで走ることなど容易すいのに…。
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