漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「きゃああ!」


アンバーは思わず悲鳴をあげた。
が、恐怖はすぐに地面に着地したことで終わった。王太子の部屋の下には見張り台があったため、飛び降りてもさほどの高さではなかったのだ。ファシアスは戦士としての習慣で城内の構造を咄嗟に頭に入れていたのでこのような行動がとれたのだった。とは言っても数メートルの高さはあった。
が、ファシアスはこともなげに着地した瞬間に走り出した。本来見張り台に立つ兵は天災による騒ぎで出払っていたため、思いのままだった。

近衛兵たちもこの大胆な逃亡に唖然としている。
「さすがファシアス将軍」と憧憬を込めてつぶやく兵たちだったが、


「愚か者ども!早くあやつらを追わぬか!!」


怒りに煮えくり返るエルミドの怒声で我に返った。
近衛兵たちも次々に窓から飛び下りたが、その時にはすでにファシアスの姿は消え去っていた。






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