漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「ひどい…」


魔力は人間にしてみれば毒と同じだ。しかも猛毒の。
これほどまでになっても耐えられたのは、武人としてのファシアスの強靭な肉体ゆえであろう。
しかしもはや時間の問題だ。このままではファシアス自身が危ない…。
アンバーは胸が潰れるような思いを感じながら、その広い背中に頬をつけた。
熱い。
鼓動が聞こえる。


「…おい…離れろって…あんたまで魔力に侵されたら…!」

「大人しくして…!」


ファシアスの腰に精一杯腕を回してぴとりと抱き付くと、アンバーは意識を集中させた。
『御力』は完全消滅したわけではなく、弱いながらも残っている。全身に残っている『御力』を集中させ、一番ひどい個所にうやうやしく口付ける。
身じろぐファシアスの鼓動が、さっきよりも速さを増して唇から伝わってくる。


(この身に残るすべての『御力』を費やしてもいい。ファシアスを癒したい―――)


だがアンバーの必死の尽力もむなしかった。どす黒さから濃い紫に変わっただけで、魔力は消え去らなかった。これでは時間稼ぎ程度にしか過ぎない。
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