漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「ごめんなさい…」


自分の無力さに打ちひしがれ、アンバーはファシアスの肩に額を寄せた。
ファシアスはくるりと体勢を変え、アンバーを膝の上に抱きかかえた。


「だいぶ楽になった。ありがとな」

「うそ…これだけじゃ全然…。ごめんなさい…『御力』がすっかり弱まってしまって…」


おだやかな微笑を浮かべ、ファシアスはアンバーの頭にそっと手を置き、こわばる頬をつたい、顎に指を掛け唇を撫でた。


「やっぱ盗られちまったのか、唇」


つぶやくように問われた言葉にはアンバーは答えられなかった。うなだれたのが、返事だった。


「くそ…殺してやる…」

「私はもう『聖乙女』ではない。おまえに守られる存在ではないのよ。…だから今からでも遅くないから…」


ファシアスはうなだれたアンバーの顎を少し強引に押し上げた。


「何度言わせる。俺は決めたんだ。なにがあってもあんたを守るって」


やさしく穏やかな微笑を浮かべているファシアスだったが、その漆黒の瞳には強い意志が宿り、切りつけるような鋭さを感じさせた。


アンバーは報いたかった。この鋭さに。
わずかでも『御力』がこの身に残っているのなら―――
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