漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「取り戻したい…『聖乙女』の力を…。純潔は完璧には奪われていない。それはまだ私にも猶予があるということ。神が許してくれるなら『聖乙女』の力を」

「取り戻して…どうするんだ?…また宮にこもるのか。独りきりで」

「…そうよ。そして今度はけして外には出ない。もう誰一人として外界の者は入れない…」

「…」


不意に強く抱き締められた。


「な、なぁにファシアス…!?」

「もういい。もういいんだ…。もうあんたひとりが犠牲になんてならなくていいんだ…」

「犠牲になど…きゃっ…!」


そのまま押し倒されて、ファシアスの強靭の身体の重みをいっぱいに感じた。


「やっぱりさっさと連れ去ってしまえばよかった…。誰もいない森奥に閉じ込めて、身も心も完全に穢しきってしまって…俺だけのものにしてしまえばよかった…」

「…ファシ…アス…」

「神が見向きもしないほどに清らかさを奪ってしまえば、あんたは遠くへ行かないのか…」

「はなして…ファシアス、痛いわ…」


不穏な雰囲気。魔力に侵されているせいか、表情は陰鬱として怖いくらいだ。
だがしかし、その真摯な眼差しは、時折見せるアンバーを見る時のそれだった。刺さるくらいに鋭くて熱い―――恋慕を宿した―――。
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