漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「あんたを害するものから守ると誓ったが、俺自身がなにもしないとは言っていない。つまり、俺があんたを汚しきってしまっても、誓約の違反にはならない」

「…なにを言っているの…ファシアス…こんな時に冗談はやめ」

「冗談なんかじゃない。俺はいつも本気だった。本気であんたを守りたいと思いながら、一方で連れ去りたいとばかり考えている、浅ましい奴だった…」

「そんな…。おまえだけは私を解かってくれると…だから『聖乙女』である私に寄りそってくれていると…」

「寄りそっていたさ。寄りそっていたからこそ、あんたの寂しさが手にとるようにわかった」

「……」

「好きだ、アンバー」


目を見張るアンバーを、ファシアスは真っ直ぐに見つめた。


「ずっと前から…あんたが『聖乙女』として目覚める前からずっと好きだった。けどあんたは国と民に奪われてしまった。諦めようと思った。けれどできなかった。ましてや、あんたが秘めている寂しさを感じてしまえばなおさら…」


言いながら、ファシアスはアンバーを抱き締めた。そっと包み込むように、守るように。


「このまま連れ去ってしまいたい。誰も知らない遠くの世界へ…あんたがただのアンバーにもどれる世界に。そしてそこで俺がずっとあんたを守っていく。愛していく。だから―――」


言いかけてファシアスは押し黙った。
鋭さを戻した目が、遠くの気配を探っている。物音を感じたらしい。
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