漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「ちっ、追手が来ているようだ…。こんな暗い夜にまでご苦労なこった」


皮肉を吐くと「ここは危険だ。移動するぞ」とアンバーを抱いて、ファシアスはすぐさま走りだした。

月明かりも乏しい森の中、アンバーを抱えて走るのは大変な労力だ。
やっと休めたと思ったのに…とアンバーはファシアスの傷が心配だった。


(せめて『御力』がもっと使えれば…)


『御力』を失いかけた自分の、なんと無力なことか。
でもなにもできない。ファシアスの腕の中で大人しく抱かれていることしか。
詫びるように額を押し付けた胸板から、早鐘が伝わってくる。このまま逃げられるのか。もし逃げられなかったら、ファシアスのこの鼓動が止まってしまったら―――言い知れぬ不安に襲われる。


『好きだ、アンバー』


ファシアスの気持ちにはうすうす気づいてはいた。瞳の熱量があまりにも熱すぎて、目を合わせられない時が多々あったから。
この広く心地よい胸に、力強い腕に、包まれ守られていたらどんなに幸せだろう…。


(でも…)


「いたぞ!!」


慎重に走ってはいがた、ついに兵に見つかってしまった。
どうやら兵たちは思いのほか多かったようだ。次から次へと姿を現す。
その数は10名ほど。さすがに逃げおおせる数ではない。もたもた相手をしていたら他の兵士に追いつかれる危険性もある。
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