漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
途端に、ファシアスの剣さばきが変わった。俊敏だった動きが鈍くなった。
エルミドが呪文を唱えたことで、肩を侵していた魔力の毒が強まったのだろう。ファシアスの息が上がり始め、次第に兵たちに数で押され、取り囲まれそうになる。
そんな様子につけいり、二人の兵が同時に猛攻してきた。相手するのに集中したのを狙って、兵が一人ファシアスの背後に忍び寄った。
「…ファシアス…!」
考えるよりも先に、アンバーはその兵に飛びかかった。剣を持つ腕に決死でしがみつく。アンバーの思わぬ行動に虚をつかれ、兵は思わず力任せにアンバーを払いのけた。混信の男の力に、小動物のように軽いアンバーの身体は飛ばされる。
その様子に気づいたファシアスが、前後の兵を一瞬で薙ぎ払い、アンバーに駆け寄った。だが―――
「…きゃ…!」
アンバーは身体が下へ吸いよせらるのを感じた。断崖に足場を滑らせたのだ。暗くてまったく見えなかった。
(落ちる…!)
直感した瞬間、腕に強い痛みを感じた。
ファシアスが身を乗り出してアンバーの腕を掴んだのだ。
ほっと力が抜けたが、安堵できる状況ではなかった。上半身をほとんど宙に投げ出して、片腕の力だけでアンバーの体重を支えているファシアスの背はまったくの無防備だった。突くなり斬るなり好きにしろ、とばかりに。
エルミドが呪文を唱えたことで、肩を侵していた魔力の毒が強まったのだろう。ファシアスの息が上がり始め、次第に兵たちに数で押され、取り囲まれそうになる。
そんな様子につけいり、二人の兵が同時に猛攻してきた。相手するのに集中したのを狙って、兵が一人ファシアスの背後に忍び寄った。
「…ファシアス…!」
考えるよりも先に、アンバーはその兵に飛びかかった。剣を持つ腕に決死でしがみつく。アンバーの思わぬ行動に虚をつかれ、兵は思わず力任せにアンバーを払いのけた。混信の男の力に、小動物のように軽いアンバーの身体は飛ばされる。
その様子に気づいたファシアスが、前後の兵を一瞬で薙ぎ払い、アンバーに駆け寄った。だが―――
「…きゃ…!」
アンバーは身体が下へ吸いよせらるのを感じた。断崖に足場を滑らせたのだ。暗くてまったく見えなかった。
(落ちる…!)
直感した瞬間、腕に強い痛みを感じた。
ファシアスが身を乗り出してアンバーの腕を掴んだのだ。
ほっと力が抜けたが、安堵できる状況ではなかった。上半身をほとんど宙に投げ出して、片腕の力だけでアンバーの体重を支えているファシアスの背はまったくの無防備だった。突くなり斬るなり好きにしろ、とばかりに。