漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
『やめて…!』


アンバーは叫んだ。腕の中で震えている少年は、同じく子どもであるアンバーよりも小さく、やせ細っていた。


『そのガキは店の食い物を盗もうとした!大事な商品をそんな薄汚れたガキにくれてやれるか!』


怒り狂う店主の男の怒鳴り声は、10歳のアンバーを文字通り震えあがらせた。それでも泣きそうになる目を見開き必死に訴えた。


『この子はこんなに痩せてお腹を空かせているじゃない…!せめてひとつだけでも許してあげてよ…!』


イロアス家に母とともに仕えていたアンバーは、今日も日課の市場への買い物にやってきていた。
そこで偶然、この少年が店先の商品を盗もうとし、気付いた店主に暴力をふるわれているところを目撃してしまった。

『聖乙女』の恩恵を受けた豊かな国サンポリス。
それでもこういう子どもがいなくなることはなかった。病や不慮の事故で親を亡くし、貧しさのために盗みを働くしかない子ども。
アンバーも幼い頃に父を亡くしたが、運よくイロアス家に仕えることになり、やさしい幼馴染にもめぐまれて母と幸せに暮らしていけている…。
だからそれだけにアンバーは見過ごせなかった。自分と同じような境遇を持った子どもが、少しばかり運がなかっただけで虐げられてしまうことが…。
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