漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
泥の中から顔を出すような目覚めだった。
鈍い思考で見慣れない天井を確認し、ぼんやりと訝しんだ。


(ここはどこだ…俺は…たしか…アンバーを助けようと…しかし兵に刺され―――)


はっとして起き上がり、ファシアスはあたりを見回した。アンバーはどこだ―――?


「ファシアス…!」


突然声がしたかと思うと飛びつかれた。


「ファシアス!よかった…!目が覚めて」


見慣れた新緑色の瞳と金髪を確かめてファシアスは安堵した。
アンバーの顔はすでに涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「おまえがこのまま目覚めなかったらどうしようと…気が気じゃなくて…!ばか…どうしてあんな無茶をしたの…!」


しがみついてくるアンバーの衣服は、かつての純白の正装からすっかり様変わりし、汚れきってあちこちが裂けていた。
今ファシアスがいるのは粗末な作りをした小屋だった。おそらくこの森に棲んでいる集落の者が、休憩用や仮住まい要に作ったものなのだろう。

あのあと、二人して落ちて…どう助かったかは分からないが…アンバーはこの小屋に気づくや、意識を失ったファシアスをどうにかして自力で運んでくれたのだろう…。


(この細い体で…)


ぎゅう、とファシアスはアンバーをきつく抱き締めた。
ふと見やると細い脚が裂かれて短くなった裾から伸びている。運ぶのに邪魔だと自ら裾を裂いたのだろうか…。真っ白な肌に小傷を浮かべた生々しい素足から目をそらし、思わず苦笑った。


(…やっぱりお転婆だな)


清らかで尊い『聖乙女』がすっかり様変わりだ。

ファシアスはアンバーの濡れそぼった頬をやさしく包んだ。
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