漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「とは言っても今はこれが限界なの。とても昨晩のおまえの傷を治した『力』にはおよばないわ。あの時は必死で自分でもどうやって引き出したのかわからないの…。もっと『力』を自由に引き出せたらいいのに…」


ひとりごちるアンバーにファシアスは黙り、そしてため息をついた。


「確かに今は追われる身だ。でもいずれは自由を取り戻したいとは思わないのか?これはいいチャンスじゃないのか。新しい人生を歩むための」

「なにを言っているの。私は『聖乙女』よ。守るものが」

「満足に『力』を操れない身で?」

「…だからそれは研鑽をつんで」

「『聖乙女』が不在の間はこの国は乱れるかもしれない。だが、それがなんだというんだ。外界からは武人が守る。内側のことは内の人間が自分たちで守る。それでいいじゃないか。元来人間は強い生き物だ。誰かに過保護に守ってもらわなければ生きていけない者じゃない」

「過保護ですって…?」

「ああそうだよ。『聖乙女』の制度なんて目も当てられないもんだ。誰か一人を犠牲にして成り立つ平和なんてそんなものまがい物だ。
おまえが犠牲になるのなんて嫌だ。おまえは俺にとってはただのアンバーで守るべき存在だ。これまでもそうだった。そしてこれからも」


ファシアスはもう一度アンバーを抱き寄せキスをした。
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