漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
胸が苦しい。
破れてしまいそう。悔しくて。

守ると誓った。ファシアスを。
なのにどうして自分は彼を置いて、ひとりで逃げているのだろう。


脚が棒のようになって立ち止まり、しゃがみこんで、アンバーは嗚咽した


ファシアス…
ファシアス…。


(おまえを守りたいのに…口ばかり。こんなのいや…こんな自分はいや…!)


『力』は自分の中にある。
これは自分ひとりが助かるためじゃない。大切な人を守るためにあるのだ。


(私は弱い人間)


アンバーは心の中で懺悔した。だがそれは神へではない。自分自身へだ。


(自分の心が弱いばかりに多くの民を傷つけた)


エルミドが起こしたあの雹雨を防げなかったのは、『力』を弱めてしまったせい。ファシアスへの想いと『聖乙女』としての責任の板挟みに迷い、苦しみ、民を守るという意志がたるんでしまったせいだ。
その隙を突かれての惨事だった。まんまとエルミドに付け入られたのだ。


(私が強ければ、あんなことにはならなかった。ファシアスを巻き込み、傷つけることもなかった…。もうこんなことは、二度といや…)


無力な民が恐怖に逃げ惑う姿を見るのも。
自分のために傷つくファシアスを見るのも。
なにもできない自分に、かきむしられるような歯がゆい思いを感じるのも。


(いや…いや…っ!守りたいのよ。私は大切なものを守り抜きたいのよ…!)


瞬間、光が生まれた。





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