漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
そんなファシアスの意志を嘲笑うかのように、魔弾がどんどん大きくなっていく。
禍々しい邪悪な力が膨らむにつれ、空は曇り始め、風は奇妙に強さを増し、辺りにおぞましい空気がたちこめる。
兵たちは震えた。
このような邪悪な力が『聖乙女』の代わりに国を守るというのか?
そしてファシアスは生身の身体で剣ひとつだけでそれを受け止めようというのか??


「ファシアス様、どうか降伏を…!」

「おやめください…!お逃げください!」


兵たちから哀願する声が聞こえた。しかしファシアスは断固として剣をかまえたままでいる。

エルミドはそんなファシアスを心底いまいましく思った。
いくら強靭な肉体を持つとは言え、生身の人間が魔力を何度も受けて平然としていられるはずがない。激痛そして蝕まれるような苦しみ…魔力による苦痛は並みの痛感ではないはずだ。しかも腕に矢傷まで負っている状態であるのに。


(これがアンバーが選んだ男か―――)


思わず息をのむ自分に気づいて、エルミドは苛立った。
こいつさえいなければ、アンバーを簡単に手に入れることができたのだ。
もう二度と邪魔できぬよう、粉々に消してやる。そして悲しみに泣きむせぶあの女を存分にかわいがって―――。

憎悪と劣情がこめられた魔球は際限を知らず大きくなり、エルミドの手にもあまるほどになった。
にたり、とエルミドは顔を歪めた。


「消え失せよ!邪魔者が!!」

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