花萌ゆる、恋。
これで私の用が終わったので、お弁当をカバンに詰め込み家に帰ろうとした時、突然グイッと腕を掴まれた。
「…な、なに」
内心ドキッとしたがそれを読まれないように気にしない素振りで振り向いた。
彼は真剣な顔でこちらを見ていたので驚いた。
さっきまで、笑ってたのに。
「…さっきはゴメンナサイ。
水かけちゃって」
そう言って頭を下げて来るもんだからまたびっくりして目を見開いた。
「あ、あと。笑ったのもゴメンナサイ」
…こんなチャラそうな人でも謝るんだ。
なんて結構失礼な事を思ってしまった。
「…顔、あげてよ。
別に気にしてないし、もういいよ」
そう言った途端、下げていた顔が勢いよく上がり、なんだか心底嬉しそうな顔が目に入った。
「よかった…」
そして彼はしゃがみこみ、掴んでいない手で自分の顔を覆った。
なんだか、そんな彼の態度に拍子抜けしてしまった。
何を言われるかと思ってたら謝罪って。
ちょっと可愛いと思ってしまう。
そんなに許してくれなそうな顔してたかな私。
てかまず。
「手、離してくれるかな?…痛いから」
さっきからずっと掴まれている腕がじんじんする。
スッと離れた所から温度が変わっていくのが分かった。
それくらい掴む手の力が強かったんだ。
「俺、藤井梓(フジイアズサ)。」
突然、自己紹介が始まり私はキョトンとする。