花萌ゆる、恋。



そしてしばらくして藤井くんは私から目をそらし、6月の夕方の空を見上げ儚く笑った。


私もつられて空を見た。


夕方って言っても夕日はまだ出ていないけど。


綺麗だと、思う。



藤井くんの瞳に似ていて。


気がつくと彼はもう空なんて見上げていなくて、私をじっと見つめていた。


目が合うと彼はやっぱり、嬉しそうに笑った。


…よく、笑う人。




「じゃ、私帰るから」

「送って行きましょうか?」

「ううん。大丈夫」



手を振りながら校門に向かっている時、藤井くんは思い出したように私に駆け寄ってきた。


え、なに?


私は立ち止まり彼の目の前に立つと、「これ」と握っている手を差し出され意味が分からなかったが私も手を出した。


パッと藤井くんの握った手が開いて私の手のひらに何かの物体が落ちた。


何これ?ボタン…?



それは制服のブレザーのボタンで、うちの学校のマークが描かれている。


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