君にまっすぐ
その日の仕事は早めに終わらせた。
たまたま会食もなかったため、ちょうどよかった。
6時15分に駐車場へ着くと田中が待っていた。

「お疲れ様です。坊っちゃん。」

「あぁ、お疲れ様。彼女はもう出たのか?」

「えぇ、先ほど出たばかりです。もしかしたら、坊っちゃんが来るかもしれないと思っていましたが、的中しました。」

「なら、早く車庫を開けろ。」

孝俊はそそくさと車に乗り込み、駐車場を出て行く。
駐車場を出て駅へ向かう途中あかりを見つけた。

車を歩道に寄せて止め、クラクションの音に振り向いたあかりに車から声を掛ける。

「森山田さん、偶然だね。よかったら送って行こうか。この後用事もないし。」

「武堂様」

あかりが車に駆け寄って来る。

「お疲れ様です。そんな私などを送っていただくわけには行きませんよ。お気持ちだけで。」

「それは俺がお客様だから?」

「そうです。私は駐車場の管理人で武堂様はそこに車を預けるお客様ですから。」

「そんなキラキラした瞳で見ていたら、その言葉には説得力が欠けるよ。」

孝俊は苦笑しながら続ける。

「それにお客様とはいっても、俺はあのビルの次期オーナーだよ?ということは俺は森山田さんの上司とも言えるんじゃないかな?帰りが一緒になった部下を上司が送って行っても、それはありえることだと思うけど。」

「そ、それはそうかもしれませんけど、でも私にとってはお客様に変わりはありませんし…。」

「ギルダー社のアヴァン最高クラス世界限定50台、乗ってみたくない?」

「う…、正直乗りたいです。」

「でしょ?ちょっとドライブしてちゃんと家まで送っていくし、俺の身元は言わなくても保証されてるでしょ?君に何かしでかしたら、室長の田中にも顔向けできないからね。だから安心して?」

「そこまで仰るなら、お言葉に甘えてもいいのでしょうか。」

「だから、俺が誘ってるからいいに決まってるじゃないか。ちょっと待ってて。」

車を降りた孝俊はさり気なくあかりの腰に手を当て、車へとエスコートする。

「さぁ、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

あかりは照れたような表情を浮かべ、キラキラした瞳で高級車アヴァンへと乗り込んだ。
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