君にまっすぐ
「せっかくだし、ちょっと横浜ぐらいまでドライブでもしようか。」

「いいんですか?明日も早くないですか?しばらくアヴァンに乗っていられると思うと私は非常に嬉しいですが。」

「君も朝は早いでしょ。」

「いえ、私の今週の休みは火曜と金曜なので、明日はお休みです。」

「そうなんだ。じゃあ、横浜の夜景でも見てから送るよ。家は中目黒だったかな?」

「はい、そうです。ありがとうございます。」

明日が休みだというあかりの言葉に孝俊は内心ニンマリとする。
車に乗せることに成功したのだ。
あとはホテルまで連れ帰るのは今までの経験上たやすいものだ。
孝俊は上機嫌でアクセルを踏み込んだ。


「やっぱり、女の子は夜景とか好きなものなの?」

「…」

「もうすぐみなとみらい付近に着くけど、山下公園でも散歩するかい?それかもういい時間だし、食事でもどうかな?」

「…」

「森山田さん?」

「…」

「森山田あかりさん?」

信号が赤になり車が止まったと同時に返事のないあかりの方を見る。
あかりは今までで一番に瞳をキラッキラさせて車の内装、座り心地、装備を確かめている。
その表情は今まで孝俊に向けていたメロメロ笑顔だ。

「あの、森山田さん?」

今度は肩を揺らしながら、声を掛けた。

「え!あ!はい、すみません。何でしょうか?」

「いや、そんなにこの車が気に入った?」

「はい!!ずっと憧れていた車を実物を拝めるだけでなくて、乗車できるなんて感激です!!いつも乗っていらっしゃるオルディも大好きで、いつも武堂様のお陰で拝見出来て幸せなんですけど、限定50台の日本に2台しかないと言われているこのアヴァンに今自分が乗っているなんて!!しかも、このカスタマイズ!!武堂様さすがセンスありますね!!私感激で興奮しっぱなしです!!本当に夢のよう!!」

あかりは今までに見たことのない様子で、頬を赤く染め興奮したようにしゃべっている。

「え…っと、いつも車を見てたの?」

「はい!!!普段は車庫に入ってしまっているので、見ることができないですが、武堂様が来て乗り降りする際は、オルディさんに会うことができるので武堂様が地下に来ただけで私はもうオルディさんに会える嬉しさでドキドキが止まらなくて。」

「そ、そう…」

「私がお礼を言うのも変ですが、武堂様のおかげでいつも幸せを頂いてます。本当にありがとうございます。」

「あ、あぁ。」

孝俊は頭が混乱し、あかりの話を聞いているのになかなか理解ができない。
一方のあかりは我に返ったように外をキョロキョロと見ている。

「ああ!!ここで止めて頂けますか?
この辺り三ツ沢ですよね?私の実家この辺りなんですよ!ちょうど明日はお休みなので、両親に顔を見せて行きます。武堂様、今日は車に乗せて頂いて本当にありがとうございました。とても楽しかったです。」

孝俊は頭が追いつかないまま、決定事項のように降りることを告げるあかりの言うことを聞くしかない。
ちょうどコンビニがあったので、駐車場に車を止めると改めてお礼を言ってあかりは車をあとにした。
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